
スタジオジブリ制作、高畑勲監督による『かぐや姫の物語』をご覧になった方の中には、あの特徴的な長い顎を持つ「みかど」というキャラクターが印象に残っている方も多いのではないでしょうか。
公開当時からSNSで話題となり、「顎が刺さりそう」「なぜこんなデザインに」と様々な反応を呼んだこのキャラクターですが、実は物語において非常に重要な役割を担っています。
この記事では、みかどとは一体何者なのか、なぜあのような特徴的なビジュアルで描かれたのか、そして原作『竹取物語』との違いや、かぐや姫が月へ帰る決定的なきっかけとなった理由について、詳しく解説していきますね。
みかどとは時の天皇でかぐや姫の最後の求婚者

『かぐや姫の物語』におけるみかど(御門、帝)とは、時の天皇を指すキャラクターで、かぐや姫の最後の求婚者として描かれています。
5人の公達(貴族の男性たち)からの求婚をすべて拒んだかぐや姫に対して、みかどは「自分のもとへ来たいと願っている」と勘違いし、宮中への出仕を命じました。
翁(かぐや姫の育ての父)には官位を授ける条件を提示しますが、姫が拒否すると、かえって関心を強めてしまいます。
そして自ら忍びで翁の屋敷を訪れ、強引にかぐや姫を連れ去ろうとするのです。
この強引な行動がきっかけとなり、かぐや姫の月への帰還が決定的となってしまいました。
みかどが物語に登場する理由と役割

原作『竹取物語』との大きな違い
原作の『竹取物語』では、天皇とかぐや姫の関係はまったく異なる描かれ方をしています。
原作では、天皇とかぐや姫は文を通じて3年間も交流を続け、姫が月に帰る際には不老不死の薬を天皇に託すほどの深い関係性が築かれていました。
天皇はその薬を富士山頂で焼却させるという有名なエピソードにつながります。
しかし、高畑勲監督の『かぐや姫の物語』では、みかどの強引さが強調され、かぐや姫との関係は極めて浅いものとして描かれています。
男社会の象徴としてのみかど
本作におけるみかどは、単なる求婚者ではなく、より深いテーマを体現する存在として描かれています。
かぐや姫は月から与えられた「男を惹きつける力」という呪いによって苦しみます。
5人の公達たちも含め、彼女を「獲得すべき賞品」として扱う男性たちに囲まれますが、みかどはその男社会の権力構造の頂点に立つ象徴的存在なのです。
みかど自身が公達たちを「優勝商品のかぐや姫を狙う者」と見なし、自分自身を「優勝トロフィー」に例えるナルシストぶりを見せる場面もあります。
かぐや姫の月帰還を決定づけた行動
みかどがかぐや姫を強引に連れ去ろうとした際、姫は姿を消すという超常的な現象を起こします。
この出来事が、かぐや姫が月へ帰ることを決定的に促すきっかけとなりました。
物語の終盤、姫が月に帰る際には、みかどは石上中納言(5人の公達のうち死亡した人物)以外の4人の公達とともに月見をして見送る姿が描かれています。
みかどの特徴的な長い顎が話題に
公開当日から炎上したビジュアルデザイン
『かぐや姫の物語』が2013年に公開されると、みかどの異常に長い顎が最大の話題となりました。
公開当日からTwitterなどのSNSで「アゴが長すぎる」「刺さりそう」「なぜこんなデザインに」と次々にコメントが投稿され、ネタ化していきます。
この特徴的な顎は、醜悪さやナルシストの象徴として解釈されることが多くなりました。
平安時代の価値観との乖離
一方で、平安初期の行動様式や価値観を考えると、みかどの行動自体は当時としては普通のことだったという見方もあります。
天皇からの入内(宮中に上がること)の要請を拒否することの方が、当時の常識としては異常視された可能性が高いのです。
しかし現代の観客の視点では、みかどの強引な行動は権力者による暴力的な振る舞いとして映ります。
そのギャップを視覚的に表現するために、あえて醜悪に見えるデザインが採用されたとも考えられますね。
美醜とは無関係という解釈も
別の解釈として、かぐや姫がみかどを拒絶したのは、その容姿の美醜とは無関係だという見方もあります。
姫が拒絶したのは、背後から突然抱擁されるという行為そのものに対してであり、相手が誰であろうと同じ反応をしたであろうという考察です。
この視点に立てば、みかどの顎の長さは、権力者の傲慢さや独善性を象徴的に表現したものと理解できます。
SNSやファンの間での反応と考察
ネタとして愛されるみかど
公開から10年以上経った今でも、みかどの顎は『かぐや姫の物語』を語る上で欠かせないネタとして定着しています。
SNSでは以下のような声が見られます。
- 「かぐや姫の物語で一番印象に残ったのは、みかどの顎」
- 「あの顎で刺されたらと思うと怖い」
- 「みかどのビジュアルが衝撃的すぎて、ストーリーが頭に入ってこなかった」
- 「高畑監督の意図的なデザインだとしたら天才的」
- 「現代的な視点で見ると、権力者のハラスメントそのもの」
このように、みかどのキャラクターは話題性という点では大成功を収めたと言えるでしょう。
かぐや姫の「罪」とみかどの関係についての考察
ファンの間では、かぐや姫が月で犯した「罪」とは何だったのか、という議論が今でも続いています。
その中で、みかどとの関係性が重要な鍵を握っているという考察も多く見られます。
一説によれば、かぐや姫は月の世界で「地上に憧れを抱く」というタブーを犯したとされています。
そして地上に送られた姫は「男を惹きつける力」という呪いとともに生きることになり、それが彼女の罰だったという解釈です。
みかどの強引な求愛は、この呪いが最高潮に達した瞬間であり、それによって姫は罰からの解放(月への帰還)を呼び込むことになります。
「男たちを弄ぶ罪」という解釈
別の考察では、物語の根底に「男たちを弄ぶ罪」というテーマがあるという見方もあります。
5人の公達たちに無理難題を突きつけ、結果的に彼らを苦しめたことへの罰として、最終的にみかどという最高権力者からの強引な求婚を受けることになったという解釈です。
ただし、作品をよく見れば、かぐや姫自身は男性たちを弄びたいわけではなく、自由に生きたいだけだったことが明確に描かれています。
それでも周囲の男性たちは彼女を「獲得すべき対象」として扱い続け、その構造の頂点にいるのがみかどだったのです。
みかどというキャラクターが伝えたかったこと
『かぐや姫の物語』におけるみかどは、単なる脇役ではなく、作品の核心的なテーマを体現する重要なキャラクターです。
特徴的な長い顎のデザインは、一見すると奇抜で笑いを誘いますが、その裏には深い意図が隠されています。
みかどは権力、男社会の抑圧、そしてかぐや姫を自由に生きさせなかった社会構造そのものの象徴として描かれているのです。
原作の『竹取物語』では好意的に描かれていた天皇というキャラクターを、高畑監督はあえて強引で傲慢な存在として再解釈しました。
それは、かぐや姫の視点に徹底的に寄り添い、彼女が直面した理不尽さを現代の観客に伝えるためだったのでしょう。
みかどの登場によって、かぐや姫の月への帰還が決定的となり、物語はクライマックスへと向かいます。
この構成からも、みかどがいかに重要な役割を担っているかが分かりますね。
まとめ:みかどはかぐや姫を月へ帰らせた最後の一押し
『かぐや姫の物語』のみかどとは、時の天皇であり、かぐや姫の最後の求婚者として登場するキャラクターです。
特徴的な長い顎のデザインで話題となりましたが、これは醜悪さやナルシシズム、権力者の傲慢さを象徴的に表現したものと考えられています。
原作『竹取物語』では天皇とかぐや姫は良好な関係を築きますが、本作では強引で一方的な求愛として描かれ、それがかぐや姫の月への帰還を決定的に促すきっかけとなりました。
みかどは男社会の頂点に立つ象徴的存在であり、かぐや姫が地上で受けた抑圧の最終形態として描かれています。
公開から10年以上経った今でもSNSで語り継がれるこのキャラクターは、高畑監督が投げかけた重要なメッセージを担っているのです。
もし『かぐや姫の物語』をまだご覧になっていない方、あるいは見たけれどみかどのインパクトで内容をあまり覚えていない方は、ぜひもう一度作品を鑑賞してみてください。
みかどというキャラクターの意味を理解した上で見直すと、また違った深みを感じられるはずです。
かぐや姫が自由に生きることを許さなかった社会、そしてそれでも彼女が最後まで生きることの喜びを忘れなかった姿が、きっと心に響くことでしょう。
高畑監督が最後に遺してくれたこの傑作を、ぜひじっくりと味わってみてくださいね。