
スタジオジブリの『かぐや姫の物語』を観て、その独特な映像美に心を奪われた方も多いのではないでしょうか。
まるで絵巻物が動き出したような、あの柔らかくも力強い線の秘密はどこにあるのでしょう。
デジタル全盛の時代に、なぜあそこまで手描きにこだわったのか、そしてどれほどの労力が注がれたのか。
この記事では、『かぐや姫の物語』の作画における手描きの魅力と、その制作の裏側にある驚くべき事実を詳しくご紹介しますね。
『かぐや姫の物語』は徹底した手描き作画で制作された作品

『かぐや姫の物語』は、高畑勲監督が手描きの線を最大限に生かすことにこだわり抜いた、まさに手描きアニメーションの到達点と言える作品です。
2013年に公開されたこの映画は、デジタル彩色が主流となった時代に逆行するように、アニメーターが描いたラフな手描き線をそのまま画面に残す表現を追求しました。
その結果、作画枚数は24万枚とされ、制作期間は企画から8年、製作費は50億円を超えるという、まさに前代未聞のプロジェクトとなったのです。
一般的なアニメーション映画と比較しても、その労力は桁違いでしたね。
なぜ『かぐや姫の物語』は手描きにこだわったのか

高畑勲監督の芸術的ビジョン
高畑勲監督が手描き作画にこだわった理由は、単なる懐古趣味ではありませんでした。
監督は、かぐや姫の「怒り」「悲しみ」「あきらめ」といった複雑な感情を、手描きの線の力で表現したいと考えたのです。
デジタルで整えられた綺麗な線では、人間の感情の揺らぎや激しさを十分に表現できないと判断したんですね。
前作『ホーホケキョ となりの山田くん』で試みた手書き風スタイルをさらに進化させ、日本の伝統的な絵巻物である鳥獣人物戯画のような自由な描線を目指しました。
革新的な三層構造の作画技法
『かぐや姫の物語』の手描き作画の最大の特徴は、一枚のシーンを作るために実線動画、塗線作画、模様作画の3種類の作画が必要という、前例のない手法にありました。
通常のアニメーションでは一枚の絵を一回描けば済むところを、この作品では三重に描く必要があったんです。
これが作画枚数を大幅に増やした主な要因となりました。
この三層構造によって、手描きの温かみを残しながらも、豊かな質感と立体感を実現することができたのです。
ただし、この手法は彩色時の線内塗りを極めて困難にし、制作スタッフを悩ませることにもなりました。
デジタル時代への挑戦状
2010年代初頭、アニメ業界ではデジタル制作が完全に主流となっていました。
そんな中で高畑監督は、あえてデジタルや3DCGの流れに逆行するという大胆な選択をしたのです。
これは単なる時代への逆行ではなく、手描きでしか表現できない芸術性を追求する挑戦でした。
2024年時点の分析でも、この手描き線の「力」が再評価され、デジタル全盛時代における手描きアニメーションの新しい可能性を示した作品として、世界のアニメ関係者を驚かせたとされていますね。
『かぐや姫の物語』の作画を支えた数字と制作現場
作画枚数をめぐる諸説
『かぐや姫の物語』の作画枚数については、実は複数の数字が存在します。
- 24万枚説:一枚のシーンに3種類の作画が必要とした推定値で、最も広く知られている数字です
- 17万3035枚説:約100分の上映時間から実測された数値で、フルアニメーションに近い密度とされています
- 50万枚説:公開前の月刊誌に掲載された予定値で、18万コマ×3枚という計算に基づいていました
この50万枚という数字は計画段階の目標値であり、実際には制作の都合で未達成だった可能性が高いとされていますね。
それでも、24万枚という数字だけでも、日本のアニメーション史上屈指の作画枚数であることは間違いありません。
8年の歳月と50億円超の製作費
企画開始から公開までに8年という歳月がかかったことも、この作品の特徴です。
製作費は50億円を超え、主要アニメーターの作画期間は平均で2年半(2011年1月から2013年10月)に及びました。
しかし、公開直前には予想以上に時間がかかり、実質8カ月で仕上げなければならないという状況に追い込まれました。
制作スタッフはこの期間を「地獄」と形容するほど、過酷な作業環境だったそうです。
それでも最終的には興行収入24億7000万円という好成績を収め、この膨大な労力が報われる結果となりましたね。
感情を表現する抽象的な作画
『かぐや姫の物語』の作画で特に注目されるのが、かぐや姫が疾走するシーンです。
このシーンでは、具体的な風景を描くのではなく、抽象的な一枚絵が動くことで、かぐや姫の悲しみや怒りを表現しています。
手描きだからこそ可能な、感情の激しい揺れを線の荒々しさや勢いで表現する手法は、まさに高畑監督が目指した境地でした。
このような表現は、デジタルで整えられた線では決して生み出せない、手描き特有の生命力を感じさせるものです。
SNSや専門家の声から見る『かぐや姫の物語』の評価
アニメ業界関係者からの驚嘆
『かぐや姫の物語』の手描き作画は、公開当時から世界中のアニメ関係者を驚かせました。
特に海外のアニメーターたちは、デジタル時代にこれほど純粋な手描きアニメーションを制作したことに衝撃を受けたとされています。
スケッチ風アニメの新基準を確立した作品として、高畑監督の遺作にふさわしい評価を得ていますね。
アニメーション技術の進化の中で、あえて原点に立ち返った姿勢が、逆に革新的だったという声も多く聞かれます。
観客の感動の声
SNSでは、『かぐや姫の物語』の映像美に感動したという声が数多く見られます。
「まるで絵本が動いているようだった」「線一本一本に魂が宿っているように感じた」といった、手描きならではの温かみを評価する意見が目立ちますね。
また、かぐや姫の疾走シーンについては「あの激しい感情の表現に涙が止まらなかった」という感想も多く、手描きによる感情表現の力を実感した観客が多かったことがわかります。
ファンの間では、何度も見返すたびに新しい発見があるという声も聞かれ、手描きの細かな表現の豊かさが長く愛される理由となっています。
日本アニメ史における位置づけ
『かぐや姫の物語』は日本アニメ史上最高の作画枚数という説もありましたが、実際には25万枚を超える他の作品も存在するとされています。
ただし、単純な枚数の多さではなく、手描きの質と芸術性において到達した高みこそが、この作品の真の価値だと評価されていますね。
高畑勲監督が生涯をかけて追求した「アニメーションとは何か」という問いへの、一つの明確な答えとして、今後も語り継がれていくでしょう。
デジタル技術が発展すればするほど、この作品の手描きの価値は逆に高まっていくという見方もあります。
まとめ:手描きの力が生み出した奇跡の作品
『かぐや姫の物語』は、高畑勲監督が手描き作画に徹底的にこだわり、24万枚もの膨大な作画枚数と8年の歳月、50億円を超える製作費をかけて完成させた作品です。
実線動画、塗線作画、模様作画という三層構造の革新的な技法により、手描きの線が持つ感情表現の力を最大限に引き出すことに成功しました。
デジタル全盛の時代にあえて逆行し、鳥獣人物戯画のような日本の伝統的な絵画表現を現代のアニメーションで蘇らせたこの作品は、まさに手描きアニメーションの到達点と言えるでしょう。
制作現場は「地獄」と形容されるほど過酷でしたが、その結果生まれた映像美は、世界中のアニメ関係者を驚かせ、観客の心を深く揺さぶり続けています。
手描きでしか表現できない感情の揺らぎ、線の勢い、温かみ──それらすべてが詰まった『かぐや姫の物語』は、高畑勲監督の遺作として、これからも多くの人々に感動を与え続けるはずです。
もしまだ『かぐや姫の物語』をご覧になっていないのなら、ぜひ一度鑑賞してみてください。
そして二度目の鑑賞では、一枚一枚の絵に込められた手描きの技術と、スタッフたちの情熱に思いを馳せながら観てみるのもおすすめですよ。
きっと、最初に観たときとはまた違った感動が味わえるはずです。
手描きアニメーションの極致とも言えるこの作品を通して、デジタル時代だからこそ輝く、アナログの美しさと力強さを感じ取っていただければ嬉しいですね。