
スタジオジブリの高畑勲監督が手がけた映画『かぐや姫の物語』をご覧になって、この美しくも切ない物語の原点が気になっている方も多いのではないでしょうか。
実はこの作品には、千年以上も前から日本人に愛され続けてきた古典文学が元ネタとして存在しています。
本記事では、かぐや姫の物語の元ネタである『竹取物語』について、その成立背景から現代への影響まで、詳しく解説していきます。
古典文学に馴染みのない方でも理解できるよう、わかりやすくお伝えしますので、ぜひ最後までお読みください。
かぐや姫の物語の元ネタは『竹取物語』

かぐや姫の物語の元ネタは、平安時代前期に成立した日本最古の物語文学『竹取物語』です。
この作品は9世紀後半から10世紀前半、具体的には900年頃に成立したとされており、日本で最も古い物語として知られています。
『源氏物語』の中でも「物語の出で来はじめの祖」と称されるほど、日本文学史上重要な位置を占める作品なんですね。
作者は残念ながら不明ですが、かな文字で書かれた初期の物語の一つとして、後世の文学作品に大きな影響を与えました。
ジブリ映画『かぐや姫の物語』は、この『竹取物語』を原作として、高畑勲監督が現代的な解釈を加えて制作した作品です。
『竹取物語』の基本的なストーリーと特徴

光る竹から生まれた姫の物語
『竹取物語』は、竹取の翁(おきな)が山で光り輝く竹を見つけ、その中から小さな美しい赤ん坊を発見するところから始まります。
翁は妻の媼(おうな)とともにこの子を大切に育て、「なよ竹のかぐや姫」と名付けました。
不思議なことに、かぐや姫は瞬く間に成長し、類まれな美しさを持つ女性になります。
翁は竹から次々と財宝を得るようになり、一家は豊かになっていきました。
5人の貴公子の求婚と難題
姫の美しさは評判となり、多くの求婚者が現れます。
その中でも特に熱心だったのが、次の5人の高貴な貴公子たちでした。
- 右大臣阿倍御主人(あべのみうし)
- 車持皇子(くらもちのみこ)
- 大納言大伴御行(おおとものみゆき)
- 大宰帥石上麻呂(いそのかみのまろ)
- 中納言石上麻呂太夫(いそのかみのまろたゆう)
かぐや姫は彼らに対して、それぞれ実現不可能とも思える難題を課します。
これらの難題は、仏の石の鉢、蓬莱の玉の枝、火鼠の裘、龍の首の珠、燕の子安貝といった、伝説上の宝物を持ってくるというものでした。
貴公子たちは様々な手段で難題をクリアしようとしますが、結局誰一人として成功することはできませんでした。
帝の求婚と月への帰還
時の帝(みかど)もかぐや姫の美しさに心を奪われ、求婚しますが、姫はこれも断ります。
そしてある日、かぐや姫は月を見ながら涙を流すようになりました。
実は、かぐや姫は月の都から来た存在で、地上での生活は一時的なものだったのです。
8月15日の満月の夜、天人たちが迎えに来て、かぐや姫は天の羽衣を着せられます。
この天の羽衣には不思議な力があり、着ると地上での記憶を失ってしまうのです。
かぐや姫は帝に不死の薬を託し、富士山で焼くように遺言を残して月へ帰っていきました。
帝はかぐや姫の遺言通り、不死の薬を駿河の高山(富士山)で焚いたとされています。
『竹取物語』が成立した背景と時代
平安時代前期の文化的環境
『竹取物語』が成立した900年頃の平安時代前期は、日本独自の文化が花開き始めた時期でした。
それまで中国の影響が強かった日本の文化は、この時期からかな文字の発達とともに、独自の方向へと進化していきます。
『竹取物語』は、そうした日本文学の黎明期に生まれた作品なんですね。
かな文字で書かれた物語文学としては最古級のもので、後の『源氏物語』や『枕草子』などの名作の先駆けとなりました。
実在の人物がモデルという説
興味深いことに、物語に登場する5人の貴公子は、奈良時代に実在した人物をモデルにしている可能性が高いとされています。
これらの人物は実際に朝廷で活躍した貴族であり、当時の読者にとっては「あの有名な○○がモデルだ」と分かる設定だったのかもしれません。
つまり『竹取物語』は、現代でいうところの「モデル小説」的な要素を持っていた可能性があるんですね。
また、文武天皇時代の宮中采女(うねめ)の結婚禁止という史実から派生した説もあり、当時の社会制度や価値観が物語に反映されているという見方もあります。
インドや中国文化の影響
『竹取物語』には、インドや中国由来の要素も含まれていると考えられています。
竹から人が生まれるという設定や、不死の薬、月の世界といったモチーフは、当時日本に伝わっていた大陸の伝説や思想の影響を受けている可能性があります。
平安時代は遣唐使などを通じて大陸文化が盛んに流入した時期でもあり、それらの要素が日本独自の物語の中に巧みに織り込まれたと考えられるんですね。
つまり『竹取物語』は、国際的な文化交流の中で生まれた、グローバルな要素を持つ作品とも言えます。
ジブリ映画『かぐや姫の物語』の独自解釈
高畑勲監督による現代的な読み解き
2013年に公開されたスタジオジブリの『かぐや姫の物語』は、高畑勲監督が8年の歳月をかけて制作した大作です。
この映画では、原作『竹取物語』を基礎としながらも、監督独自の解釈が多く加えられています。
特に注目すべきは、かぐや姫の月からの降臨を「罪と罰」として描いた点です。
映画では、かぐや姫が地球に降りてきたのは、月での何らかの罪に対する罰であり、地球の「生」と「愛」を体験させるためだったという解釈がなされています。
賤民の翁の家で育つ設定
ジブリ版では、竹取の翁が身分の低い賤民であることが強調されています。
原作でも翁は一般庶民ですが、映画ではさらにその身分の低さが描かれ、かぐや姫が地上の最も素朴で純粋な環境で育つという設定になっているんですね。
これは、高畑監督が「本当の幸せとは何か」「人間らしい生き方とは何か」というテーマを深く掘り下げるための演出でした。
都に出てから華やかな生活を送るかぐや姫が、山での素朴な暮らしを懐かしむシーンは、この映画の重要なメッセージを表しています。
手描きの水彩画風のビジュアル
ジブリ版『かぐや姫の物語』の最大の特徴の一つは、そのビジュアル表現です。
従来のアニメーションとは一線を画す水彩画のような淡い色彩と線画は、日本の伝統的な絵巻物を思わせる美しさを持っています。
この表現方法は、千年前の古典文学を映像化するにあたって、現代の技術と伝統的な美意識を融合させようという試みでした。
制作に8年もの歳月がかかったのは、この独特の表現方法を実現するための技術的な挑戦があったからなんですね。
『竹取物語』と『かぐや姫の物語』への反響
古典文学としての評価
『竹取物語』は千年以上にわたって読み継がれ、日本文学における最重要作品の一つとして評価されています。
学校教育でも必ず取り上げられる作品であり、「光る竹」「かぐや姫」「月への帰還」といったイメージは、日本人の文化的記憶として深く根付いています。
研究者たちは、この物語が持つファンタジー性と現実性のバランス、人間の欲望や別れの悲しみといった普遍的なテーマの描き方を高く評価しているんですね。
映画公開時の話題性
2013年に公開されたジブリ版『かぐや姫の物語』は、その独特の映像表現と深いテーマ性で大きな話題となりました。
SNSでは「美しすぎて涙が止まらない」「原作の新しい解釈に感動した」という声が多く見られました。
また「8年もかけて作られただけあって、一つ一つのシーンに込められた想いが伝わってくる」という評価も多くありました。
一方で「原作と違う部分もあるが、それが逆に新鮮だった」「古典をこんな風に解釈できるのかと驚いた」という意見もあり、原作ファンからも概ね好意的に受け止められたようです。
世界での評価
ジブリ映画『かぐや姫の物語』は、日本国内だけでなく世界でも高い評価を受けました。
アカデミー賞長編アニメーション部門にノミネートされるなど、国際的な映画賞でも注目されました。
海外のファンからは「日本の伝統的な美意識が詰まった作品」「東洋的な哲学の深さを感じる」といった声が寄せられています。
千年前の日本の物語が、現代の世界中の人々の心を動かしているというのは、非常に興味深いことですよね。
『竹取物語』という元ネタが持つ普遍的なテーマ性と、高畑監督の解釈が融合したことで、時代や文化を超えた作品になったと言えるでしょう。
現代に生きる『竹取物語』のテーマ
別れの悲しみと人生の儚さ
『竹取物語』の核心にあるのは、大切な人との別れの悲しみです。
育ての親である翁と媼、そして心を寄せた帝との別れは、避けられない運命として描かれています。
この「避けられない別れ」というテーマは、現代を生きる私たちにも深く響くものがありますよね。
人生には必ず別れの時が来る、だからこそ今この瞬間が大切なのだという、人生の儚さと美しさが物語全体に流れています。
月(異世界)と地上(現実)の対比
物語では、月の都は穢れのない完璧な世界として描かれていますが、かぐや姫はそこに帰ることを必ずしも望んでいません。
むしろ、不完全で苦しみもある地上での生活に、人間らしい温かさや喜びを見出していたんですね。
この「理想の世界」と「不完全だけれど愛おしい現実」という対比は、現代人のワークライフバランスや人生の選択にも通じるテーマです。
完璧を求めることと、不完全さの中に幸せを見つけることの間で揺れ動く心情は、千年前も今も変わらないのかもしれません。
身分や富と真の幸せ
物語に登場する5人の貴公子は、高い身分と富を持ちながら、かぐや姫の心を得ることはできませんでした。
一方で、貧しい竹取の翁夫婦は、かぐや姫に深く愛されていました。
このことは、真の幸せや愛情は、身分や財産では買えないものだというメッセージを伝えています。
現代社会でも、物質的な豊かさと精神的な豊かさのバランスについて多くの人が悩んでいますが、『竹取物語』は千年前からそのテーマを問いかけていたんですね。
まとめ:千年の時を超えて愛される物語
かぐや姫の物語の元ネタは、平安時代前期に成立した『竹取物語』です。
日本最古の物語文学として、千年以上にわたって読み継がれてきたこの作品は、竹から生まれた美しい姫が月に帰るまでの物語を通じて、別れの悲しみ、人生の儚さ、真の幸せとは何かといった普遍的なテーマを描いています。
2013年に公開されたスタジオジブリの『かぐや姫の物語』は、この古典を現代的に解釈し、「月の罪と罰」という新しい視点を加えることで、原作の魅力をさらに深めました。
実在の人物をモデルにしたとされる5人の貴公子の求婚、天の羽衣によって記憶を失うという設定、富士山で不死の薬を焼くという結末など、物語の細部には様々な歴史的・文化的背景が織り込まれています。
千年前の物語が今も多くの人の心を動かすのは、そこに描かれているテーマが時代を超えて私たちの心に響くものだからなんですね。
古典に触れてみませんか
『竹取物語』という元ネタを知ることで、ジブリ映画『かぐや姫の物語』をより深く楽しむことができます。
古典文学と聞くと難しそうに感じるかもしれませんが、『竹取物語』は比較的短い作品で、現代語訳も多数出版されていますので、気軽に読むことができますよ。
原作を読んでから映画を見直すと、高畑監督がどの部分を忠実に再現し、どこに新しい解釈を加えたのかが分かって、二重に楽しめるはずです。
千年前の日本人が感じていた感情に思いを馳せながら、この美しい物語の世界に浸ってみてはいかがでしょうか。
きっと、新しい発見と感動があなたを待っていますよ。